還暦の向こう側の住人

平塚、大磯を散歩しているオヤジのブログです

読書記録 4月初旬の読書「凍える牙」「ぎょらん」

 4月初旬、手に取った本は乃南アサさんの「凍える牙」です。警察もののミステリーは、月村良衛さん「ガンルージュ」「機龍警察白骨街道」、柚月裕子さん「朽ちないサクラ」、横山秀夫さん「第三の時効」、大沢在昌さん「帰去来」などを読んでおります。

 「凍える牙」は二項対立と言う構図の中で、完全な男社会である刑事の世界に主人公、音道貴子を女性刑事として登場させています。

 深夜のファミレスで、突然、男が燃え出して死亡すると言う怪事件が起きるところから物語は始まります。貴子のバディは典型的な昭和のデカ、滝沢。女性蔑視も甚だしいこの男、貴子とは口もきかず一方的に捜査を進めます。なかなか手がかりが見つからず、難航する捜査の中、今度は喉を食いちぎられ、頭蓋骨も嚙み砕かれると言う猟奇殺人が起きます。

 この作品を読んで感じたことは、二項対立の一方に女性の刑事を置くのなら、もっと貴子と言う人物を深く掘り下げ、その生い立ちに至るところまでも描写して読者の気持ちが貴子に共鳴できるようにして欲しいと思いました。

 廃人同様にされた娘の代わりに父親が90数パーセントもの狼の血の混じった犬を使って復讐を果たしていくと言うストーリー。スラスラとページをめくり、読み進められ楽しめましたが、柚月さんや、横山さんの人物描写ほどのインパクトを受ける事は無かったように思います。

 2冊目に読了した本が、町田そのこさんの「ぎょらん」。短編集ですが、その短編が次々と大きなうねりを呼び、最後はとてつもなく気持ちを揺さぶられる本だと思いました。

 「ぎょらん」とは、人が亡くなった直後に現れる、赤い珠。それを口にし、かみつぶすと死者の思いを見ることが出来ると言う都市伝説によって生まれたもの。

 親友の自死をきっかけに大学を中退し10年近く引きこもりとなった兄の御船朱鷺とその妹の華子を中心に彼らが関わる人々の死にまつわる物語が綴られています。

 最初の短編、その名も「ぎょらん」なのですが、妹の華子が同じ会社の男性と不倫をしており、その相手が交通事故で死んでしまう。通夜の席で不倫相手の妻から、相手はあなたなの!と問い詰められるが、返事をしたのは同じ会社の美しい女子社員(笑)。

 テーマも重そうだし、最後まで読めるのかなと思いましたが、いきなり、人の死がテーマなのに笑わせてくれます。

 華子は彼は自分の事を本当に愛してくれたと言い、彼の気持ちを確かめるべく、朱鷺と華子は、その不倫相手が亡くなった交通事故現場に出向き必死でぎょらんを探します。

 最初の短編を読んで、結構ハートウォーミングな小説で楽しめそう、ひきこもりでニートだった朱鷺が葬儀会社で働くようになり少しづつ成長して行くし・・・・。

 と思い読み進めますが、死をもって分断されてしまった家族、友人、恋人への届かぬ思い、そして自分が思い描く彼ら彼女らからの逃れられない呪縛に苦しんでいる登場人物たちを見ている間に、自分の心が大きく揺さぶられている事に気付きます。ぎょらんを口にして死者の気持ちが分かれば、生きているあなたは本当に救われるの?作者が私たちに問いかけるように短編の各々の話が重なり合い大きなうねりとなって読者に迫って来ます。

 とは言え、悲しい物語ではないと思います。人の死と向き合う事で生きて行く元気をもらえる本だと思います。お時間がある方は是非、一読を(^^)/