還暦の向こう側の住人

平塚、大磯を散歩しているオヤジのブログです

読書感想 12月前半の読書「向日葵の咲かない夏」「神の悪手」「高校事変」

 年間60冊、読書する事を何となく目標にしていますが今年は無理そうです。(とは言っても去年からこう言った目標を立てているだけなので(笑))

 さて、今月の前半読了した3冊の簡単な読書感想を。

 道尾秀介さんの「向日葵の咲かない夏」。道尾さんの作品は11月に「カラスの親指」「カエルの小指」と2作品を読んだので、彼の原点に近い作品として「カエルの小指」の後書きで紹介されていたので読むことに。

 カラス、カエルの2冊とは全く異なるテイストの作品でした。好きか嫌いかで言うと、ミステリーとしては嫌いな作品でした。

 小学校4年生のミチオが欠席していたSの家へプリントを届ける事となり彼の家へ行くとSは首をつって死んでいます。驚いたミチオは慌てて学校に戻り担任らと共にSの家へ行くが死体が無い。Sは自殺なのか、他殺なのか?

 ミステリーの展開としてはぐっと物語に身を乗り出してしまいますが、そこからがホラー・ファンタジーのテイストへ。何とSが蜘蛛に生まれ変わり、ミチオと一緒にSの死因を解明する事に。

 ホラー・ファンタジーと言うジャンルになってしまえば何でもあり。ミチオの周囲の人物はクモになったS同様、実在しているのかいないのか、後半の伏線回収になってくるとそう言った混乱に読者は巻き込まれて行くのでは。好きか嫌いかという点では嫌いと言いましたが、上手い演出である事は否めないと思いますし、そう言った展開を高く評価されている読者も多数いるのでしょう。ただ、個人的な嗜好としては現実世界ときちんと向き合い、主人公たちの心理描写をしっかり書き込んでいる作品が好きなので、この作品は好きではないと申し上げた次第です。

 次いで読んだ本が、芹沢央さんの「神の悪手」。

 事前に本を内容を確認すべきでしたが、将棋棋士を主人公とした5編の短編集です。それぞれの短編が独立しています。最近読んだ短編小説は、同一の主人公が登場するので、各短編がそれぞれに絡み合って物語が展開して行きます。すると短編集でありながら一つの小説を読んでいるような気分にさせてくれます。

 そういう意味で、「神の悪手」は一話、一話の完成度に否が応でも期待が高まる私です。「弱い者」「神の悪手」「ミイラ」「盤上の糸」「恩返し」の5話からなる作品ですが、いずれも伏線回収はあるものの結末は読者に委ねる作品。短編であるが故、伏線回収に物足りなさを感じます。

 本のタイトルとなった「神の悪手」と「ミイラ」の二つの話が印象に残りました。

 「神の悪手」は、対局の前日、今回勝ち上がらなければ奨励会を退会しなければならない先輩棋士、村尾に呼び出され、自分の考えた棋譜通りに天才との誉れ高い17歳の宮内と戦ってほしいと言われ口論となり、先輩棋士を殺してしまった(かもしれない?)啓一。翌日の対極に先輩棋士、村尾は無断欠席。村尾が考えた作戦の棋譜通りに啓一も宮内も差し続ける事が出来れば・・・。先輩棋士の部屋には同じ棋譜が残っており、それが啓一のアリバイになる。そう考え、啓一は祈るように先輩の棋譜通りに差すと宮内もその棋譜通りに差し返してきます。奇跡のような対戦は果たして続くのか。

 「ミイラ」はエンバーミングをすることで「死」あるいは「死人」に対して全く異なる概念を植え付けられた新興宗教から救出された少年が詰将棋雑誌に詰将棋を投稿する話です。少年の作った詰将棋に隠された詰将棋のルールとは。

 将棋やその世界の事を知らない方には難易度が高い作品になってしまうかもしれません。(今、読み始めた「火のないところに煙は」で芹沢さんの印象はまた変わるかもしれません(^_-)-☆)

 3冊目は、松岡佳佑さんの「高校事変」。

 とにかく、ぶっ飛んだハードボイルド小説ではないでしょうか。総理大臣が人気稼ぎのために訪れた公立高校は武蔵小杉高校。総理大臣がSPを従え高校を訪問し始め各クラスを視察しはじめると、テロリスト集団が高校を襲撃。あっという間に生徒、教師の半数、SPも総理の護衛に当たった錦織以外は銃弾に倒れ犠牲となってしまいます。

 しかし、この高校には日本を大混乱に招き逮捕後には多くの部下と共に死刑となった半グレ集団のリーダー、優莉匡太(ゆうりきょうた)の娘、結衣(ゆい)が通っています。結衣は9歳で父親を死刑で亡くし、それ以降は施設で育と言う出自。

 テロリスト集団は最新の武器を備え尚且つ校庭にはゴミ収集車を装い、武器を装備した車両で校庭を埋め尽くしています。そして学校内を逃げ回る総理大臣とSPの錦織。テロリストは総理大臣に投降するよう呼びかけます。

 時の総理大臣がテロリストの銃弾にさらされているなか、国として危機管理センターは設置されますが、何も決められず与党の要人たちは右往左往するばかり。と言う事で、さあ、ここからスーパー女子高性、結衣の大活躍の時間です。ネタバレになってしまいますが、結衣の強いのなんの。ありとあらゆる武器の扱いに精通し、その身体能力も傑出しています。SPの錦織と協力してテロリストをどんどんやっつけて行きます。こんなに女子高生が人を殺しまくってよいのだろうか!?無茶苦茶と言えばそうかもしれません。ダイ・ハードか!!!と突っ込みたくなりますが、結衣は怪我一つしません。

 この本を読んで、主人公の設定などは異なりますが、月村了衛さんのガンルージュを思い出してしまいました。(女性高校教師と、パートのシングルマザーが諜報部員達から我が子を救出するために戦う話です)

 バイオレンスが苦手な方にはお勧めできない作品ですので、ご注意を。