還暦の向こう側の住人

平塚、大磯を散歩しているオヤジのブログです

読書感想 8月の読書

 8月も今日で終わりですね。義母の不幸があり8月下旬は慌ただしい日々が続きました。読書量も急ブレーキが掛かり8月に読了できたのは5冊。

miyabi1958.hatenablog.com

 すでに「夜市」と「この恋は世界で一番美しい雨」に関しては読書感想なのかあらすじなのか(笑)、8月初旬に投稿いたしました。

 残り3冊と言ってもSTAP細胞事件のノンフィクション、「捏造の科学者 STAP細胞事件」と恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」上下巻となり作品数としては2作品です。

 骨っぽい作品は無いかと思いノンフィクション作品で面白そうだなと思えた2作品、「捏造の科学者 STAP細胞事件」とリーマンショックで大儲けしたジョン・ポールマンに関するノンフィクション作品の「史上最大のボロ儲け」(現在読了中)を図書館で借りることに。

 STAP細胞事件に関しては日本中で知らない人はいないと思いますが、あの事件からすでに8年が経っております。あらためてこの「捏造の科学者 STAP細胞事件」を読みますと如何に自分が上辺だけの情報しか知らなかったかと思い知らされました。

 そもそも細胞の専門家でもなく、論文の書き方さえまともに知らない小保方さん(早稲田大学時代は有機化学を専攻)がハーバード大学でこれまた専門が獣医学だったチャールズ・バカンティ教授と知己を得て細胞の実験を始めた事、そして世界的な研究者である理研神戸(CDB)の副センター長笹井教授の後ろ盾を得た事で彼女の論文にはとてつもない信用が与えられました。

 しかし山中教授のiPS細胞を超える万能細胞のSTAP細胞を作ることは出来ず、成功したと思われた実験は出発材料である細胞に様々な細胞がコンタミしていたことが疑われています。

 ノーベル化学賞を受賞された野依さんが理研の理事長でありながら、何故、早急に小保方さんの研究室を閉鎖してそこで用いられていた細胞や試薬などなど実験に供されたもの全てを調べなかったのか?理研のガバナンスの低さにはただただ驚くばかりです。そして小保方さんと不倫疑惑も取りざたされましたが、笹井教授を自殺に追い込んだことは日本の発生学、再生医学分野における大きな損失になったと思います。

 日本最高峰の一つである研究機関、理化学研究所の中で行われた研究の不正を多数いる優秀な研究者たちが解明することが出来なかったのか?そしてこのような不正が世界的な権威を持つネイチャーに掲載されてしまったのか?言葉は悪いですが、よちよち歩きのひよっこ研究員の奇抜なアイデアに最高の権威が与えられてしまえばその暴走を止めることが出来ない研究の世界があると言う事でしょうか。

 今月、最後に読んだ本が「蜜蜂と遠雷」です。妻が映画を見てあまり面白くなかったと言っていたのですが、「六番目の小夜子」(昔、NHKで夏に連続ドラマを見ていました)を書いた恩田陸と言う小説家に興味を覚え図書館で借りて読むことに。

 ピアノコンクールで競い合うコンテスタント。3人の天才、母の死によってその才能を嘱望されながら一度はピアニストの夢を放棄した栄田亜夜、栄田亜夜の幼馴染のマサル・カルロスそしてこの物語のエポックメーカーではないかと思う伝説のピアニスト、ユウジ・フォン・ホフマンに師事していた風間塵。この3人は3人三様の天才、彼らの天才ぶりは演奏の随所で発揮されます。そして異色の苦労人、最年長コンテスタント高石明石がコンクールを通じてどのように覚悟を決めていくのか。

 彼ら4人の心の動きとその演奏の描写を軸にピアノコンクールは1次、2次、3次そしてオーケストラと一緒に演奏する本線へと進んでいきます。私にはクラシックには疎くこの小説で紹介されている曲名も知らなければ当然、その音色も聞こえては来ませんが、何故か理解できていると言う気持ちになります。

 本来はしのぎを削りあうコンクールであるはずなのに3人の天才たちは演奏するたびに自他共にどんどん演奏の高みに上って行きます。誰が優勝するのかではなく、ライバルの演奏を深く理解し尊敬しあう3人のコンテスタントと3次に進むことが出来なかった高石ですが、彼ら4人の人柄にどんどん惹かれていく自分がいます。読了後、とても幸福な気持ちに満たされる本だと思います。

 音の無い小説の世界、アマゾンプライムで500円払って「蜜蜂と遠雷」映画を見てみました。2時間と言う時間の制約があるからだとは思いますが、コンクールの3次に関しては割愛されています。栄田亜夜をピアノの世界に連れもどしてくれた音大の学長の娘、奏も登場しません。奏は亜夜の才能を見抜いておりコンクールの間中、亜夜をサポートしています。そして本線、オーケストラの指揮者を演じる鹿賀丈史がとても高圧的で意地悪な人として描かれていると思います。小説には登場しないクロークの受付に片桐はいりが出演しており、どんな意図が隠れているのか?私には理解できませんでした。小説とは別物として捉えた方が良さそうです。小説の中で膨らんでしまった自分のイメージとはずいぶんとギャップを感じてしまいました。