還暦の向こう側の住人

平塚、大磯を散歩しているオヤジのブログです

10月の読書、文庫本になるだけの事はあります!

 10月は5冊の本を読むことが出来ました。その中で書店でジャケ買いした3冊の本。出版社をよくよく見たら文春文庫。

books.bunshun.jp

 書店の文庫本コーナー、文春文庫推しだったのかもしれません。本は面白ければそれでよい!何十年も読書習慣の無い私が、手あたり次第直感で本を選んで乱読しはじめたのが昨年の6月。先月で読了した本の数も100冊を超え(とは言えそんなにたくさん本を読んでいる訳でもないですが(汗))、書店で選んだ本は乱読し始めて好きになった横山秀夫さんの「クライマーズ・ハイ」。希代のベストセラー作家のお一人、伊坂幸太郎さんは作品が多すぎて何を読んだらよいのやらと思われる方もいらっしゃると思いますが「死神の精度」をジャケ買い。そして池井戸潤さんは「下町ロケット」「ルーズヴェルト・ゲーム」を読んだり、テレビドラマでは半沢直樹陸王ノーサイド・ゲームを見たり、まあ知らない人はまずいない作家さんだと思いますが、ジャケ買いしたのは「民王」。

 

 横山秀夫さんと言う素晴らしいミステリー作家を知らなかったこと自体、自分にとっては大きな損失だったかもしれません。と言っても「ノースライト」と「第三の時効」しか読んでいないのですが(笑)。

 前置きが長くなりましたが、「クライマーズ・ハイ」の感想です。

 群馬県の地方新聞社、北関東新聞に勤める主人公の悠木(ゆうき)はおぞましい出自を引きずり、おびえながら生きています。「ノースライト」でもそうでしたが主人公の出自が作品の中で大きくうごめいていました。

 悠木は販売部に籍を置く山屋でもある同僚の安西と、多くのクライマーの命を飲み込んだ谷川岳の衝立岩を登る約束をします。仕事を終えて谷川岳へ向かおうとしたその最中、日航ジャンボ機が墜落します。ノンフィクションとフィクションが交錯するドラマが展開しはじめます。悠木はこの事故の取材の最高責任者として、日航全権デスクを任されます。日航機は群馬県御巣鷹山に墜落。大手新聞社と弱小地元新聞社の取材合戦が繰り広げられる中、衝立岩を登る約束をした安西はその深夜、繁華街の路上で脳梗塞で倒れ植物人間と化してしまいます。安西は何故、そんな日に夜遅くまで繁華街にいたのか?

 この作品の中では悠木の悲しくおぞましい出自が故、自分の家族、特に息子とうまく付き合えない苦しみが描かれ、悠木を慕う植物人間と化した安西の息子、燐太朗を息子の代わりのように可愛がります。

 携帯電話の無い時代、大手新聞社は無線機を使いますが北関東新聞の記者たちはポケベルで連絡を取り、15分、30分と公衆電話のある場所まで歩き悠木へ取材の途中経過を報告します。悪路の絶えない御巣鷹山での取材の中、墜落事故の真相に北関東新聞の記者たちが真相に迫ります。しかし翌朝の新聞を印刷するタイムリミットとのせめぎあいが社内では続きます。編集部対販売部の社内の対立が社長派対専務派の社内闘争に発展、そして悠木の出自を知る販売部長、伊東との対決、悠木はどうなってしまうのか?

 目まぐるしくストリーが展開される中、墜落事故の真相、新聞記者なら一生に一度、出会えるかどうかの特ダネをつかみ取れるのか?安西は何故、衝立岩に行かず繁華街で深夜に倒れてしまったのか?新聞紙ではなく新聞を作りたいと願う悠木のジャーナリズムは広告主や新聞配達店に忖度する他部署の激烈なセクショナリズムに潰されてしまうのか?友人と家族、特ダネ、社内闘争、3つの軸が重なり合いながら怒涛の終盤に向かいます。

 500ページを超える大作でしたが小気味よく場面転換する展開と最大級の飛行機事故報道に向ける記者たちの執念に気圧されながら3日で読了いたしました。

 

 伊坂幸太郎さんの「死神の精度」は6つの短編で構成されております。雨男の死神、千葉が全ての短編に登場。ミュージックをこよなく愛し、死神が故、眠くもならずお腹もすかず、当然食事の味も分からない。死神の役目は調査対象となる人間に近づき7日間行動を共にし、8日目に調査の結果を出すことです。千葉によって「可」と評価されれば担当された人間は事故か事件で死を迎えます。調査の結果はたいていの場合、「可」。

 と言いながら、第一話「死神の精度」では「可」にするか「見送り」するか迷ってしまい、まさかの見送り。人の死を題材とした短編集でありながら、第3話の「吹雪に死神」以外の作品では人が死ぬシーンは描かれていません。逆に3編目は雪に閉ざされた洋館で次々と宿泊者たちが死んでいきます。ですから千葉の同僚の死神も登場するのです。

 人の姿を借りている千葉ですが、人間ではないので彼の浮世離れした言動は調査対象者を時として困惑させます。ですが読み手としてはそこが面白ポイントではないでしょうか。死神が登場するにもかかわらず全く血なまぐささを感じさせず、ラストシーンでは短編であるが故なのか多くを語らず、読み手にその後どうなったかを委ねて来る辺りが憎いです(笑)。

 第4話「恋愛で死神」で登場した女性が最後の第6話「死神対老女」で老女となって登場。最後の短編とあって、千葉と老女の掛け合いや老女の死生観が描かれており「死」とは何かを「ゆるーく」考えさせてくれます。

 死神の精度とは第一話の結末、千葉がコインを投げて人の生死決める事なんでしょうね(笑)。

 

 池井戸潤さんの「民王」、これはSFか!?総理大臣とそのバカ息子が入れ替わる!某組織の陰謀によって息子と入れ替わってしまった総理大臣、武藤泰山。フィクションとは言え企業ものの作品を多数書かれている池井戸さんが、このような作品を出されているとは全く知りませんでした。

 ただ、舞台設定を受け入れてしまえば痛快な娯楽小説になるのかと思います。大学を2年も留年しているようなバカ息子、翔に代わって就職希望先である食品会社、製薬会社の面接官と丁々発止の議論を戦わす武藤泰山。総理大臣なんだから企業の一面接官など論破できるに決まってますよね。父親に入れ替わったバカ息子翔の方はと言えば、国会の場でスキャンダルにまみれた官房長官を必死で守り抜く熱血漢ぶりを披露。荒唐無稽と言えばそうかもしれませんが、父と子がその立場を代わることで見えて来るものもあり、お互いの日ごろの理解不足の溝が大きく埋められていきます。国会答弁の原稿において未曽有を「ミゾーユー」と呼んでしまう頭の悪い翔ですが、何が正しくて何が悪いかをきちんと判断できるハートの熱い男、こんな政治家がいたら面白そうだろうな!などと思いながら楽しまさせていただきました(^^♪

 

 ジャケ買いした3冊の本でしたが、全く毛色の違う本と出会え楽しい時間を過ごせたことに感謝です!