還暦の向こう側の住人

平塚、大磯を散歩しているオヤジのブログです

読書感想 「焼酎の科学」

 2023年、最初に読了した本がブルーバックスの「焼酎の科学」。近々に刊行された小説は図書館ではなかなか借りることが出来ませんが、ブルーバックスはすぐに借りられることが多いです。

 お酒大好きな私としては、科学的な切り口で焼酎について知ることが出来る事を期待して読み始めました。

 蒸留酒醸造酒の違いに始まり、日本においてはサツマイモが中国、琉球、鹿児島へと1600年代に伝来して初めて芋焼酎が作られ始めるのですが、寒冷地で米を原料として作られる醸造酒の清酒とは異なり、温暖な鹿児島で作られ始めた芋焼酎はアルコール発酵の過程で雑菌が繁殖しやすくなります。雑菌が繁殖すると腐敗(酸っぱくなってしまう)が起こり、この現象をどう抑えるか。それはphを低く(酸性にする)する事の出来る酵母(麹菌)を使う事です。phを低くする為にはアルコール発酵をすると共にクエン酸と言う酸を産生する麹菌を使う事で雑菌の繁殖を防ぐことが出来、蒸留する事で沸点の異なるアルコールとクエン酸(そもそも蒸留では揮発しない)が分離できると言う仕組みはなるほどと思いました。

 麹菌の変遷についても清酒で使われる黄麹菌を経て黒麹菌そして黒麹菌の突然変異の白麹菌と1600年のサツマイモ伝来から年月を経て焼酎作りに使われる麹菌のバリエーションが増えています。

 焼酎の科学と銘打っているだけ、科学、とりわけ化学の知識と醗酵に関する知識が無いと読み切れない本であると思いました。さらにややこしいのは酒税法によってお酒が事細かく定義されていることは一般の消費者としてはただ混乱と苦痛を感じるだけでした(汗)。

 定年後の3年弱働いていた会社で食品の香りを分析する仕事をしていたこともあり、本書の第4章 、最大の謎「風味」の科学は最も楽しく読むことが出来ました。25%のエチルアルコールと74.8%の水そして残りのたった0.2%の中に含まれるエステル類やテルペンアルコールと呼ばれる複数の香気成分が焼酎の風味に大きく寄与しており、その0.2%が各々の焼酎を特徴づけているとは!製法やコガネセンガンを筆頭とするサツマイモの品種によって様々な風味が作り出されるそうです。

 もっと早くこの本に出会っていれば・・・・(笑)。とは言え、複雑に影響しあう複数の香気成分の挙動を分析する(つまり風味を科学する)事はとても微量なため高感度な分析が必要で難易度が非常に高かったです。そして結局は訓練された人による官能試験の感度と精度がいまだ主流である事がこの本でも書かれておりました。

 本書は著者のお二人がそもそも農学部出身の研究者、学者さんですので平易に書くことを心掛けられているとは思いましたが、化学式や化合物名そして専門用語も出てきますので「焼酎の科学」と言うタイトルに釣られて気安く読める本ではないように思います。

 ブルーバックス恐るべし💦💦💦。