還暦の向こう側の住人

平塚、大磯を散歩しているオヤジのブログです

9月後半の読書 「テロリストのパラソル」「鎮守の森」「本が紡いだ五つの奇跡」

 9月も何とか6冊読了。今月後半で読んだ本は藤原伊織さんの「テロリストのパラソル」、昨年他界された横浜国立大学名誉教授、宮和昭さんの「鎮守の森」そして森沢明夫さんの「本が紡いだ五つの奇跡」の3冊です。

 「テロリストのパラソル」は江戸川乱歩賞を受賞したのみならず直木賞も受賞された作品。今月の前半に読んだ、呉勝弘さんの「おれたちの歌をうたえ」は登場人物が多すぎて、しかも主人公の40年前、小学生時代から延々と話が続くので私には付いていけないミステリー小説だったのですが、こちらの「テロリストのパラソル」はアル中のバーテンダー島村(偽名)を軸にどんどんと物語が進んで行きます。新宿の公園でアル中の島村はウィスキーをちびちび飲み手の震えが治まるのを待ちながら公園の景色を眺めています。すると突然、爆弾テロが起きてしまいます。いきなりの爆弾テロと言う展開は読み手をこの物語の世界へ一気に引き込んでしまうのでは。

 島村は東大で学生運動をしていた過去があり、学生運動の仲間、桑野が作った爆弾の誤爆により指名手配となり20数年逃げ回っています。新宿の公園で起きた爆弾テロにおいても島村の過去が仇となりまたも指名手配となってしまいます。そんな状況下でも島村は学生運動時代の仲間だった女子学生松下の娘、元警察官だったヤクザはたまた新宿のホームレスたちの協力を得ながら事件の真相に迫るハードボイルドなミステリーです。乱歩賞、直木賞をダブル受賞した作品とあって、読み応え十分だと思います。

 

 宮脇名誉教授が書かれた「鎮守の森」は地元平塚において防砂林伐採の工事への反対運動をされている方から教えられて読んだ本です。

 神奈川県では長洲一二さんが県知事時代に江ノ島から西へ平塚はもとより大磯までの防砂林を植樹されました。その後、何十年も経って立派な防砂林となり風害、塩害から近隣住民を守り、恐らくは津波が来てもその被害を最小限にとどめてくれるものになっています。今、平塚では龍城ヶ丘プール跡地にPFIと言う民間企業丸投げで16億円もの税金を使って公園を作ろうとしています。プールの跡地だけならまだしも、そのエリアよりも更に広い面積での防砂林伐採が工事に盛り込まれています。

 「鎮守の森」とは何百年も生き続ける森の一つの理想的なモデルであり、土地土地に適応しうる様々な高さの草木が競争と共存、相矛盾するかのようですが競争と言う幾ばくかのストレスの中で共存し形成されているそうです。そんなお話を聞くにつけ、平塚市の暴挙とも言える何十年もかけて形成された防砂林を殺してしまう伐採工事に関しては、面積が足りなければ植樹します、風害、塩害がでたらその時点で検討、対策しますと市議会で都市整備部長が発言しています。健全な森が作られるメカニズムなど微塵も考慮されず、植樹面積で議論を進めようと言うロジックには辟易としてしまいます。

 地元の事だけあって感情的になってしまいましたが「鎮守の森」と言う本は宮脇先生が生涯をかけて日本のみならず世界の各国で地元のボランティアを巻き込んで健全な森を作っていったと言う話であり、鎮守と言う宗教的な意味合いで森を壊すことを禁じ、山火事や地震津波と言った自然災害から人々を守る森を維持し続けた日本独自の森づくりに関して書かれている本であると思います。

 

 「本が紡いだ五つの奇跡」は五つの奇跡というタイトルにある通り、一冊の本作りに携わった人やその家族たちの5つの話がリレーされている、とってもハートフルな作品です。小野寺宣史さんの「ひと」「ライフ」「まち」などを読んでとてもホッコリした気持ちになりましたし登場人物の健気な生き方に励まされたような気分になりましたが、久しぶりに似たような気分になった本です。

 デビュー作がヒットしたがその後は鳴かず飛ばず、生活のために筆を折ることも考えている小説家、涼元。その涼元のデビュー作の中に救いを見出し今がある編集者の津山はどうしても涼元に新しい作品を書いて欲しい。

 順風満帆な人生を送っている人などほんの一握り、大半の人は挫折感や喪失感の中で悩み苦しんでいるのではないでしょうか。

 この作品の中で涼元が新たに書いた小説「さよならドグマ」の中に何度も出てくるこんなフレーズがあります。「私の人生は雨宿りをする場所じゃない。土砂降りの中に飛び込んで、ずぶ濡れを楽しみながら、思い切り遊ぶ場所なんだよ。」ちょっとお疲れで、足踏みにしているような方がいらっしゃったら(私も含めて(笑))、そっと優しく背中を押してくれる本かもしれません。