還暦の向こう側の住人

平塚、大磯を散歩しているオヤジのブログです

2024年7月の読書記録

 7月は5冊を読了です。

38) 琥珀の夢 下 伊集院 静

39) 四十九日のレシピ 伊吹 有喜

40) 今はちょっと、ついていないだけ 伊吹 有喜

41) やってみなはれ みとくんなはれ 山口 瞳 開高 健

42) オリンピックを殺す日 堂場 瞬一

 7月はサントリー関連(笑)で「琥珀の夢 下」と「やってみなはれ みとくんなはれ」の2冊を読みました。「琥珀の夢 下」は6月に上巻を読んでおり、引き続き下巻を読みました。伊集院 静さんが描くサントリー創始者鳥井信治郎像を別の角度からも知りたくなり他の本を探すと、「やってみなはれ みとくんなはれ」を知ることに。   

 サントリー宣伝部社員であり芥川賞作家の開口健、直木賞作家の山口瞳が綴った「幻のサントリー社史」が「やってみなはれ みとくんなはれ」です。この本は、山口瞳によって書かれた「星雲の志」-小説・鳥井信治郎と開口健によって書かれた「やってみなはれ」-サントリーの七十年・戦後編の二つの作品を1冊の文庫本にされています。

 主人公、鳥井信治郎がとにもかくにも猛烈なキャラクターであり逆境をものともせず何度も危機を乗り越えて事業を拡大していく行くその姿は明治の男なんでしょうね。

 伊集院静山口瞳、開口健、三者三様に描かれる鳥井信治郎と寿屋を経て二代目、佐治敬三によって社名変更したサントリー、その事業展開の軌跡は読みごたえ抜群でした!そしてモルツが飲みたくなりました😊😊。

 伊吹有喜さんの本を2冊読んだのは、「四十九日のレシピ」の読後感がとても清々しかったので「今はちょっと、ついていないだけ」も読むこととしました。

 「四十九日のレシピ」は最愛の妻、乙美を亡くし茫然自失となった父、熱田良平と夫の浮気が発覚しこれまた憔悴して実家に戻ってきた娘の百合子、ボロボロの精神状態となった父と娘ではありますが、母の遺言でもある盛大な四十九日法要を執り行うと言う目的達成に向け、乙美がボランティアをしていた井本をはじめとする教え子たちに助けられながら、生前の乙美がどんな女性だったかを調べるにつれ、その彼女から力をもらい父と娘が再生すると言う内容です。

 この本の主軸ともなるテーマだと思いますが、乙美も百合子も子宝に恵まれない女性であり、子を産めない女性は不幸せなのか?と読者に強く迫ってくるように感じました。

 「今はちょっと、ついていないだけ」の主人公、立花浩樹は若かりし頃は秘境を旅するカメラマンとして名を馳せていました。しかし、所属事務所の社長が起こしたトラブルが元で巨額の負債を追います。食うや食わずで立花はその借金を何とか完済。40代となり人生の目標も無いままアルバイトをしながら生計を立てています。ある日、母親が入院している同部屋の女性の写真を撮る事となり、その日を境に少しずつかつての写真家としての自分を取り戻していきます。フィルムではなくデジタルとなったカメラを購入し、ちょっとどころではなく、かなりついていない人々が撮影を依頼しにくるようになります。立花の写真は依頼者たちに力を与え依頼者たちはみな人生を建て直し再生して行きます。「四十九日のレシピ」と「今はちょっと、ついていないだけ」と2作品続けて読みましたが、元気をもらいたい方にはおすすめの本です。主人公自ら、障害を乗り越え人生を再出発して行くのですが、周りには暖かい人たちの応援もあり、そんな関係性も心に染みてくることと思います。

 今月最後に読んだ本は「オリンピックを殺す日」です。まさにパリでオリンピックが開催されている中、打ってつけの本ではと思い読むことと致しました。著者の堂場瞬一さんは、スポーツ小説を数多く手がけられている作家さんと言うのはこの本を購入してから知りました。

 東京オリンピックへのアンチテーゼとして書かれた本のようですが、正直言って、あまり面白いとは感じませんでした。

 オリンピックは集金・分配のシステムであり選手はその為の道具と言い切り、今日のオリンピックのあり方に何の疑念も持たす、ジャーナリズムの心を失ったマスコミも集金・分配システムの手先と切り捨てています。ザ・ゲームと言う全く新しい理念のスポーツ大会をオリンピック開催と同時期に仕掛ける謎の集団とその開催に協力する世界的に有名なIT企業。東日スポーツ、記者である菅谷の目を通してオリンピックつぶしとも言えるザ・ゲームとは何が目的なのか?その真相に迫って行くのですが、読み手としては消化不良、もやもや感がぬぐえません。

 話の進行上あるいは伏線回収もあるのかとは思いますが、最後の最後までザ・ゲームが何なのか分からない競技大会であったことが、私が感ずる、もやもや感であり消化不良と感じた理由なんだと思います。いっそのこと、ザ・ゲーム主催者を数人登場させて(それっぽい人は何人も登場しているのですが、誰も本当のことを言っていません)、しっかり彼らの考えを小説の後半に盛り込んでくれればと思います。状況が分からないのは主人公の菅谷だけと言った内容にしてくれた方が読者としては、ザ・ゲーム側へ感情移入できたのではないでしょうか。