今年はミステリー小説とは違う分野の本を読むよう心掛けたいと昨年末に思いました。三浦しをんさんの作品を読むのは3作目ですが、「風が強く吹いている」はスポーツ小説です。2006年に刊行された本ですが箱根駅伝の舞台の描写は今、読んでもほとんど違和感を覚えません。(復路9区で走(カケル)が踏切に間に合うのか?と言う所は時代を感じましたが)
あらすじはと言うと、寛政大学の1年生となった、蔵原走(クラハラカケル)が同大学4年の清瀬灰二(キヨセハイジ)と出会うところから始まります。
陸上競技者でありながら高校時代に共に挫折を経験した事のある、走(カケル)と灰二(ハイジ)。走(カケル)はハイジの薦めにより入寮する事となった竹青荘(通称アオタケ)、実は寛政大学陸上部の寮だったのです。
走(カケル)が入寮したことでアオタケの住人は10名となります。そしてここからが、寮長的な存在でもあるハイジが密かに温めていた深謀遠慮が実行に移されることとなります。つまり箱根駅伝出場に向け寮生10名が一丸となって次々とミラクルを巻き起こす物語が始まるのです。
箱根駅伝を毎年欠かさずこの十数年見ている身としては、走(カケル)とハイジ以外がほぼど素人の集団、しかも誰一人欠ける事の出来ないたったの10名で10区間を走り切ることが出来るのか?そもそも予選会を通過できるのか?荒唐無稽すぎない!と思ったりもしますが、そこは小説、フィクションの世界です。ハイジが全員のレベルに寄り添った練習メニューを課し、それを必死でこなすチームメンバー。着実にチームの実力は上がって行くと共に読み手である私もどんどん感情移入して行きます(笑)。
冒頭も申し上げましたが、箱根駅伝の各区間の描写が実にリアルで、さすが評価の高いスポーツ小説と思いました。また、3作品しか三浦しをんさんの本は読んでいませんが、行間から感じられる優しさは作者の表現力なんでしょうか。
ハッピーエンドを良しとしない読者もいるかとは思いますが、たった10名で箱根駅伝を完走する青春群像劇は力をもらえる作品だと思います。