還暦の向こう側の住人

平塚、大磯を散歩しているオヤジのブログです

読書感想 伊岡 瞬「145gの孤独」

 11月21日に読了しました「カエルの小指」を書店で購入した際に、併せてジャケ買いしたのが伊岡瞬さんの著書「145gの孤独」。ジャケ買いしたので作者に関する予備知識は全く持ってありません。

 主人公、倉沢修介は元プロ野球選手。相手バッターの後頭部にデッドボールを投げてしまい、相手選手は選手生命を断たれ、同時に倉沢も内角にボールを投げられなくなり引退。引退後は便利屋を始めるが、「付き添い屋」と言う依頼人から頼まれた人に付き添うと言う変わった商売も始めます。

 この作品は4つの短編、第一章「帽子」、第二章「報酬」、第三章「記憶」、第四章「利腕」で成り立っており、異なる依頼人から倉沢へ時間を経ながら異なる「付き添い」の依頼が舞い込みます。

 第一章では小学生と毎週水曜日にサッカーを見に行く付き添い。第二章は出稼ぎにきたフィリピンダンサーをフィリピンへ帰国させるため成田空港までの付き添い。第三章は独り身となった女性の大学教授の家に3泊しながら文献を整理すると言う「付き添い」。そして最終章となる第四章は倉沢の便利屋を立ち上げるにあたって後ろ盾となり、様々な局面で倉沢を支援してくれているアリエス社の社長戸部と彼の娘を石巻まで車で送ると言う「付き添い」。

 この本を読んで先ず思ったのが重い内容なのに軽く感じられる。暗い話なのに、その暗さをあまり感じられない。このギャップをどうして感じるのだろうか?それは、随所に散りばめられている倉沢が発する軽妙洒脱なジョークに思わずくすぐられるからなのでは。決して話の腰を折るわけでもなく、突如、話の合間合間で交わされるジョークはこの作品のとても良い調味料になっているように思います。

 そして野球しかしてこなかった男とは思えない、倉沢の深い洞察力が、どの章の話も単なる付き添いでは終わらず、依頼人たちの人生を賭したドラマ、事件を表面化させ倉沢によって解決される小気味よさがあります。各章を読み終わるごとに倉沢に対して「あなたは名探偵コナン君ですか!?(笑)」と言いたくなる始末。

 第三章あたりから主人公、倉沢が抱えている「孤独」がつまびらかになりだし、第四章でその伏線が回収されながら第四章の事件も解決すると言うストーリーは上質なミステリー小説を堪能させていただいた気分になりました。題名の145gはプロ野球選手が使う硬球の重さであり、その重さが軽いものなのかとても重いものなのか・・・・。最近読んだ本の中ではかなり面白い本でした!