還暦の向こう側の住人

平塚、大磯を散歩しているオヤジのブログです

読書感想 筒井康隆「大いなる助走」

 今月最後に読了した本が筒井康隆さんの「大いなる助走」です。筒井康隆さんのSF小説は「パプリカ」を読んだくらい。

 さて、この作品はと言うと、滅茶苦茶な作品ですよね!

 大企業に勤める主人公、一谷京二は地方の同人誌のメンバーとなり彼が書いた自分の会社の内部告発を題材とした処女作が直木賞の候補となります。(この小説の中では、実際の賞の名前は無論記されていません。出版社の名前や他の雑誌名なども、実名ではなくともそれとわかる表記がされています)

 自分には文学の才能があると願望だけをモチベーションとして何の賞も受賞できない一谷が所属する地方の同人誌の先輩達はこの快挙に羨望と嫉妬の嵐に包まれます。また、直木賞を受賞できるよう出版社の担当と共に金と色欲にまみれた大作家たちへの裏工作が次々と仕掛けられます。

 どこまでがフィクションでどこまでがノンフィクションなのか?そもそもSF界の大御所である筒井康隆さんが文壇の有り様について一石を投じた作品なのですからその薄汚い大文豪と言う特権階級に座す者たちの所業には腹に据えかねることが沢山あるのでしょう。

 この小説の終盤は直木賞を落選した一谷の常軌を逸した蛮行と同人誌唯一の未成年であり女子高生の徳永美保子が自らの命を絶ってしまう事件が重なり、結末を迎える事となります。

 40年以上前に書かれた作品ですが、昨日の「日本三文オペラ」同様、社会背景など違うのかと思いきや、今の時代でも通用する、臨場感に富む滅茶苦茶な作品だと思いました。