還暦の向こう側の住人

平塚、大磯を散歩しているオヤジのブログです

読書感想 開高健 「日本三文オペラ」

 読書量が大幅に減っている4月、購入した本の他、図書館で借りた本2冊を5月に読了したので先ずは、開高健の「日本三文オペラ」の感想を。

 この本は、私が生まれた翌年の1959年に初版が出版されました。何と63年前に出版された本です。

 主人公フクスケは戦後の混沌の中、食うや食わずの極貧の生活。、大阪のジャンジャン横町で空腹の中、歩いていると一人の女性に声を掛けられます。そして連れられて行かれた場所はアパッチ部落と呼ばれ、旧陸軍工廠(こうしょう)に埋もれている鉄くずを盗む集団が住む部落でした。米軍の爆撃に会い、兵器・弾薬などの軍需品を製造・修理した工場である旧陸軍工廠には彼らにとってはお宝の山々がその工場の跡地に埋まっています。

 アパッチ部落は犯罪者、韓国人をはじめとする外国人そして戦争で足を失った、腕を失った、指が数本しかない者、女性、子供、老人とあらゆる人間がその働きに応じて平等に鉄くず泥棒の対価を得られると言うディストピアのなかのユートピアにも見える場所。 

 物語はアパッチ部落民と旧陸軍工廠(こうしょう)跡から巨大な金属製の部品を盗まれないように監視する守衛や警察との攻防が綴られています。しかし、アパッチ族の緻密且つ組織的な役割分担の下で実行される鉄くずを争奪していく様は小気味よいです。こんな評判を聞きつけ全国から、犯罪者、人生の落後者、ならず者達がやって来ます。来る者は拒まないアパッチ部落、どんどん人が増えてきますが、警察の旧陸軍工廠跡の取り締まりがどんどん強化され、鉄くずを得られなくなったアパッチ部落はじり貧となって行きます。

 クライマックスはアパッチ部落の切り込み隊長の一人が盗み出した巨大な鉄の塊の下敷きとなり、圧死してしまう事をきっかけにディストピアの中のユートピアだった部落は一気に崩壊の途を辿ってい行きます。

 この本に書かれている世界は日本の戦後の景色なんでしょうが、まるで地球滅亡を免れた近未来の世界を描いたSFを読んでいるような錯覚を覚え、60年以上の歳月を経て初めてこの本を読む私でしたが、全く色褪せていない世界を感じられました。そして社会の最底辺で生きているアパッチ部落の人々があれほどまでに逞しく生きていた時代があった事をこの本を読まなければ知ることは無かったと思います。