「日本SFの臨界点 石黒達昌 冬至草/雪女」と言う本は、はてなブログで読者登録をさせて頂いている冬木さんの「基本読書」と言うブログで紹介があったことで知りました。
久しくSF読んでないしなぁ、と軽い気持ちでAmazonにて購入。
この本の作者、石黒さんは1961年生まれ、東大医学部を卒業され、現在も医師だそうです。そして彼の作品の数々からやはり作家であり石黒さんよりは27歳お若いSF作家、伴名 練(はんなれん)さんが選りすぐった短編集です。
そのタイトルは以下の通りです。
希望ホヤ
冬至草
王様はどのようにして不幸になっていったのか?
アブサルティに関する評伝
或る一日
ALICE
雪女
平成3年5月2日、後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士、並びに、
と、最後の小説のタイトルはとても長く、尻切れトンボのようなタイトルとなっており、しかも横書きです。
各短編は50ページ前後の作品ですが、どの作品にもおどろおどろしいと表現してよいのか、後味のよいものではありませんが、何故か引き込まれます。最も後味の悪いと感じた作品は、高濃度の放射線に被爆した子供達が収容されている病院での医師と子供達を治療する光景が描かれた「或る一日」です。これがSFなのか!?救いのない世界は私に何を訴えかけてくるのか。
「希望のホヤ」「冬至草」「雪女」そしてハネネズミと言う絶滅危惧種に関する作品、「平成3年5月2日・・・・」はいずれも死あるいは人類のエゴで不可逆に向かわされた絶滅がテーマではないでしょうか。当然、その大きな渦に我々も飲み込まれているんだよと言う警鐘なんでしょう。
作者が医師であり科学者、特に生化学や分子生物学などに造詣が深いから、作品を通じて受ける印象が理系出身の私には受け入れやすかったです。また、フィクションとノンフィクションが織りなす臨場感はノンフィクションではないかと思う程です。
STAP細胞の事件とイメージがオーバーラップしてしまう、ドミノ倒し的にリン酸化が起きると言う理論を提唱した「アブサルディに関する評伝」はお互いにしのぎを削りあう研究室でのデータの捏造なのか、天才的なひらめきによる発見なのか・・・・。作者のバックグラウンドなくしては書けない作品なのかもしれません。
最も冷徹で、最も切実な生命の物語ー石黒達昌の描く終景と題された編者、伴名さんのあとがきも、石黒さんや今回の作品を全く知らなかった私には理解を深める事と、不気味な読後感に襲われた私への清涼剤になりました。