還暦の向こう側の住人

平塚、大磯を散歩しているオヤジのブログです

読書感想 「乱読、本が本を呼ぶ?」「激走!日本アルプス大縦断」

 トランスジャパンアルプスレース(TJAR)とは富山湾から駿河湾、つまり日本海から太平洋までの415㎞を大縦断する山岳レースです。北、中央、南アルプス3000m級の山々を登ったり下ったり。フルマラソン10回、富士登山7回に相当する距離と標高を8日間以内で30もの関門を制限時間内で走破しなければならないレースです。参加資格は色々とありますが、フルマラソンは3時間20分以内、70㎞以上のトレイルランニングのレース経験、2000m級の山で10泊以上のビバーク経験が必要などなど。その資格が認められてもさらにふるい分けがあり、30名がその参加枠。しかもこれだけ過酷なレースにもかかわらず、賞品、賞金は一切ありません。 

 このレースは2002年より数名の参加者で始まったレースです。そして第6回開催となった2012年のレースがNHKスペシャルとしてテレビ放送されました。この放送が契機となり、トランスジャパンアルプスレースへ興味を持つ人、参加したいと思う人が一気に増えることになったと思います。

 今年の夏、延期された2020年大会が開催されましたが悪天候で中止となってしまいました。そのことに関しましては以下の投稿で記載させていただきました。

miyabi1958.hatenablog.com

 多くのアスリートのみならず、その放送を視聴した私を含めた人々に強烈な印象を与えた2012年大会のドキュメンタリー制作の裏側が書かれた本が「激走! 日本アルプス大縦断 密着、トランスジャパンアルプスレース 富山~静岡415km」です。

 少しでもこのレースに興味を持たれたのなら、先ずは2012年のこのレースの映像を有料にはなりますがNHKオンデマンドで視聴され、73分の映像で語りつくせない各参加者のこのレースへの思いや、レース中、悪天候をはじめとした様々なアクシデントに見舞われる各選手の心象、そして幻覚、幻聴を聞くまで自分を追い込みながらゴールを目指す彼らの息遣いをこの本から受け取って欲しいと思います。

 また、何故、あのような素晴らしい映像と昼夜を問わず選手の横顔を撮影することが出来たのか!?、その裏側をこの本を読むことで知ることが出来ます。まさに不眠不休で8日間(実際はそれ以上なんですが)撮影し、選手の本音に肉薄し続けるNHKのスタッフ、撮影クルーの頑張りとその凄さに驚く事かと思います。

 絶対王者、望月将悟さんと制限時間内でチェックポイントを通過できず失格したにもかかわらずゴールまで走り切った岩崎選手と言う余りにも対照的な二人がお互いの人生を背負いながら北、中央、南アルプスを縦断していくドラマを多くの方に堪能して欲しいと思います。

 無補給でこのレースを踏破しようと新しい目標を掲げて絶対王者、望月さんが臨んだレースが2018年の大会です。2012年同様、2018年のトランスジャパンアルプスレースのノンフィクション作品が「激走! 日本アルプス大縦断 ~2018 終わりなき戦い~」です。

 トランスジャパンアルプスレースでは山小屋が開いている時間での食事の利用やコース中にある自販機、コンビニやお店での飲食あるいはコースに設けられている一部のチェックポイントに荷物を送っておくことが可能です。つまり食料や飲料は補充することが可能なのです。しかし望月選手は水は水飲み場だけでの補充、食料は一切無補給と言う新たな設定を設けてこのレースに臨みました。当然、荷物は他の選手の倍以上の重量となり、絶対王者と言えども完走すら危ぶまれるハンディキャップを自ら課してレースは展開されます。

 絶対王者不在となりトップ争いはレース経験の少ない選手同士、日を追うごとにトップ集団には熾烈な戦いが強いられます。地上での撮影は過去にこのレースで共に戦ったトップアスリートでもあった選手がクルーとして撮影に当たります。それが故、こんな間近での映像をテレビで私たちは見ることが出来るのですが、2012年の作品同様、撮影の裏側をふんだんに紹介してもらえるのでテレビとは違い活字から頭の中に浮かぶ映像の迫力を楽しめました。

 2年前のレースでリタイアを余儀なくされた最高齢の竹内選手は何としても完走を目指します。ダークホースと化した近内選手はレース経験の浅さから後半、ルートを見誤ったりと垣内選手に猛追されトップから陥落してしまいます。荷物の軽くなった望月選手、どこまで順位を上げられるか!?

 息つく暇のないレース展開は2012年の大会とは様相が異なりますが、本当に選手たちの精神力の強靭さには感服いたします。

 なかなかノンフィクション作品を読む機会が少ない私ですが、賞品も賞金も出ない、レース参加のために何年も血の滲むようなトレーニングを重ね、自身の限界の先にいる自分と出会うために命がけで415㎞を踏破する選手たちの何人かが、自分は普通の人間だが頑張ればこんなことが出来ると言うことを証明したいと言うようなことを言われていたことがとても印象的でした。

 そしてこの大会は未だ、誰も亡くなっていないレースである事を付け加えたいと思います。