還暦の向こう側の住人

平塚、大磯を散歩しているオヤジのブログです

読書感想 「乱読、本が本を呼ぶ?」小野寺史宜 「ひと」と「ライフ」

 またまたブクログさんのネタで恐縮です。ブクログさんで小野寺史宜さんの「ひと」と言う本が紹介されていましたので早速図書館で借りて読むことに。

 何でこんなに読みやすく、スルスルと物語の中へ入りこめてしまうんでしょうか?そして読了後に感じる主人公たちの住んでいる世界の暖かさと彼らへの親近感。物語の展開に翻弄されハラハラ、ドキドキなんてことはないのですが、穏やかで心地よい風に包まれたような気分。

 次の本でも同じような感覚にとらわれるのかな?と思い「ライフ」と言う本をまたまた図書館で借りて読むことに。

 当然、主人公や設定が違うのですが、読了後に得られる印象は「ひと」と同じようにホッコリした気持ちになっておりました。

 さて、いずれの本も主人公は青年。「ひと」の主人公は二十歳の青年。高校生の時に父親が亡くなり、さらに私大へ通い下宿生活をしている二十歳の時に母親が突然死、そして天涯孤独になってしまう。

 「ライフ」の主人公は27歳、大学時代から同じアパートに9年住み続けています。高校生の時に父親が亡くなり、その保険金で私大に通うことができ、卒業後、二つの会社を辞めてフリーター、近所のコンビニで働いています。物語の冒頭、主人公は他人の結婚式に違う名前で出席している???

 舞台は、二人それぞれが住んでいる町が場所は違えど東京の下町というか「地味」なお土地柄です。他人と他人の距離がそこそこ近く、人々のかかわり方が昭和を彷彿とさせるような場所です。

 客観的に見て彼らの置かれている立場は決して安穏とはしていられません。特に「ひと」の場合は天涯孤独、母の保険金も極めて少なく大学を退学し生き残る道を探すサバイバルです。「ライフ」にしても母親は再婚したものの主人公はコンビニでバイトをしながら就職する気があるのかないのか、生計もどうなっているのやら。

 こんな状況なのに物語からは悲壮感とか焦燥感というものが、私にはほぼ伝わっては来ませんでした。それは彼らが自分の置かれている立場をきちんと受け止め、人生に対しても諦め投げやりになっていないからだと思います。彼らの置かれている立場を、その場の結果として世間がラベリングすれば、「負け組」と言われるかもしれませんが、本人たちが自力で歩んでいく事を諦めていませんし、彼らの見据える先には希望と言う自信があるのではないでしょうか。

 最後に、彼らを取り巻く周囲の人たち、訳ありの人もいなくはないですが、こんな人たちに応援されているんだったら主人公たちは道を見誤ることなく、きっと幸せになってくれるのではないでしょうか。

 私は調子に乗って、「まち」と言う本も借りてしまいました(笑)。