還暦の向こう側の住人

平塚、大磯を散歩しているオヤジのブログです

読書感想 「乱読、本が本を呼ぶ?」 三浦しをん 「舟を編む」 「愛なき世界」

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 雨の日なので、本の虫となって活字の森を散策しましょう(^^♪

 という事で、今週は2回目の読書感想ですが、三浦しをんさんの著書2冊の感想を。

 一冊目は我が家の本棚に10年近く積読されていた「舟を編む」です。

 主人公は出版社の営業部に配属されたものの戦力外とされた馬締(まじめ)。ところが、大学院で言語学を先行した経歴と自宅アパートの大量の蔵書が示すように言葉に対しては素晴らしいセンスの持ち主である事が理由で、辞書編集部へトレード。

 国語辞典「大渡海」の編纂メンバーとなった馬締(まじめ)は10年以上の歳月をかけて完成までにこぎつけられるのか!?

 冒頭、彼の妻となる香具矢との出会いはとても幻想的です。馬締がたった一人の住人となっているアパートの2階の物干し場。月明かりに照らされ、かぐや姫のごとく現れる香具矢。どんな展開が待っているのかワクワクしましたが、意外にも、物語は淡々と時にじれったく進んでいきます。この作品には大どんでん返しとか、大きな仕掛けなど必要はないのでしょう。予算が厳しく増員もままならない辞書編集部員たちが、時代と共に変容する言葉ひとつひとつと根気強く丁寧に対峙して手塩にかけて「大渡海」を編纂していくシーンだけで十分ドラマチックなんだと思います。

 ネットで簡単に検索できる時代だからこそ、今一度、辞書と言うものを見直しても良いのかもしれません。

 

 二冊目は、最近の私の本を読む流儀になってきていますが(笑)、同じ作家さんの別の著書を読むことです。、タイトルだけで本を借りたのですが、その著書が「愛なき世界」。

 タイトルだけで本の内容を想像すると、とんでもなく冷たい、荒涼とした世界がイメージされましたが、本の内容は全くそんなことはありません!

 主人公はT大、理学部生物学科で植物、シロイヌイズナの研究に没頭している博士課程の女子大生、本村。

 T大と言っていますが思いっきり、舞台が本郷にある東大だと言うのは誰の目にも明らかです。横道にそれますが、私自身、研究者を支援する装置の販売に長年携わっていたので、東大理学部へも営業の一環で何度も足を運んでいました。あの古く、天井が高く迷路のような理学部の建物の描写はとても感慨深かったです。また、研究に関する装置や器具や備品の説明や名称、さらには遺伝子の解析を行うシーンなどがありとても専門的な内容にも深く触れられていたことに驚きました。

 話は戻りますが、本村の所属する研究室の面々が利用する、大学近所の洋食屋「円服亭」の新米料理人、藤丸が主人公、本村へとても大きな影響を与え、この物語は進んでいきます。シロイヌイズナの研究に没頭するあまり、感情(愛)を持つことのない植物を研究の対象にする以上、自分に愛とか色恋はいらないと決意する、本村。そんな、研究に一途な本村を好きになってしまう藤丸。主たる登場人物は本村の研究室の殺し屋風(?)の松田教授、川井助教ポスドクの岩間女史と後輩の加藤、そして円服亭の主人、円谷に藤丸と10人に満たない人たちが繰り広げる世界は愛に満ち溢れていると思いました。ラスト、大詰めのシーンはシロイヌイズナの変異体を作る実験でとんでもない失敗を行ってしまい途方に暮れる、本村。打ちのめされたかに見えた本村ですが、藤丸や松田教授はじめ研究室のみんなに励まされ、次なる研究のゴールに向けて歩みを止めず、踏み出していきます。こんな「愛なき世界」だったら、良いですねぇ!